一酸化炭素と水素の混合ガスは、合成ガソリンやアルコールなど様々な化学製品の原料として知られる。
これを、天然ガスの主成分であり、かつ主要な温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から合成するメタンドライリフォーミング(DRM)は、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から近年注目されている反応のひとつだ。ところが、低温(600度未満)で特に顕著なコーキング(副生成物としてすすが出ること)が装置の栓塞をもたらす可能性があり、現状のDRMは800度超の高温条件下で行わざるを得ず、燃料消費の問題から実用化には至っていない。
こうした中、物質・材料研究機構、高知工科大学、東京工業大学らのグループは、ナノ相分離構造のトポロジー(位相幾何学的絡み合い)を制御することにより、DRMに対して優れた低温活性と長寿命特性を発揮する触媒材料を創成した。
ナノ繊維状のニッケル金属相とイットリア酸化物相が組みひものように互いに絡み合う特殊なトポロジーを備えたこの触媒は、「根留触媒」Ni#Y203(ニッケル・ハッシュタグ・イットリア)と名付けられた。ニッケルが酸化イットリウム内部に深く根を張り巡らしているため、マイグレーション(加熱や電場印加によって粒子が広範囲にわたってはい回る現象)が起きず、これによりコーキングが抑止されるので、従来の材料では困難だった低温領域(500度未満)において、長時間(1000時間以上)の安定的なDRM駆動が実現した。
シェールガスなどの非在来型化石燃料の市場拡大や新興国の経済成長に伴って、今後も温室効果ガスの排出は続き、地球規模の気候変動は苛烈化が進むと予測されている。これに対し、開発した触媒は大きな抑止力を発揮しうるもので、天然ガス有効利用と温室効果ガス低減への突破口となると期待されている。