広島大学大学院統合生命科学研究科の栂浩平研究員と坊農秀雅教授、およびフマキラー株式会社の木本芙美子研究員、藤井裕城研究員らの共同研究グループは、殺虫剤への抵抗性を持つトコジラミのゲノム配列を決定し、特異的な変異を持つ転写産物729個を発見した。
直近の20年間、トコジラミ被害が急激に増加している。その原因の一つは、トコジラミの殺虫剤への抵抗性の獲得である。
本研究では、トコジラミの殺虫剤抵抗性獲得の原因遺伝子を探るため、殺虫剤が効くトコジラミ(感受性系統)と効かないトコジラミ(抵抗性系統)の全ゲノム解読を試みた。精度の良いゲノム決定が可能なロングリードシーケンシングを利用してゲノム解読を行ったところ、両系統について既存のトコジラミのゲノム配列(リファレンスゲノム)よりも長い(完全性が高い)ゲノム配列を構築することに成功した。
これらを用いて、感受性系統と抵抗性系統の遺伝子配列を比較した結果、抵抗性系統に特異的に見られる変異を持つ599遺伝子(729個の転写産物)を発見した。その中には、DNA修復、リソソーム内で働く酵素など、他の昆虫で殺虫剤抵抗性の発達に寄与することが既に知られている遺伝子が多く含まれていたことから、得られた遺伝子リストは、殺虫剤抵抗性獲得に関与する可能性が強く示唆されるとしている。そのほか、殺虫剤への応答性は不明だが、飢餓に応答して糖の取り込みを促進する遺伝子にも変異が多く見られることが確認された。
今後は、ゲノム編集などの遺伝子機能解析を利用して、明らかになった遺伝子の変異と殺虫剤抵抗性発達との関係が判明すれば、殺虫剤抵抗性の進化メカニズムの解明につながることが期待される。ひいては、より効果的な薬剤の開発や、野生個体の殺虫剤抵抗性の予測にも活用できることが考えられる。