産業技術総合研究所の宮脇裕氏(畿央大学客員研究員)と畿央大学の森岡周教授らの研究グループは、脳卒中後運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価した上で、運動主体感(自分が自分の運動を制御しているという感覚)が上肢使用量に影響することを明らかにした。

 脳卒中後の運動障害は、運動主体感を奪う可能性がある。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさといった不快感も招くため、運動主体感それ自体が患者の行動変容にどのような影響を及ぼしているのかは明らかではなかった。

 そこで研究グループは、不快感と運動主体感の分離を実現する質問紙を独自に開発し、脳卒中後患者156名の運動主体感を縦断的に評価することで、運動障害が招く運動主体感の低下が上肢使用量に及ぼす影響を精査した。

 その結果、不快感ではなく運動主体感の低下が上肢使用量の減少に関連することが示され、運動障害が運動主体感を阻害することで、上肢使用量が減少するという運動主体感の媒介効果が明らかになった。さらに、運動主体感が低下していた場合、これが向上することで、上肢使用量の改善が大きくなることが示された。

 今回の研究では、不快感から運動主体感を分離するための質問紙を開発し、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響することを明らかにした。この成果は、運動主体感という臨床において新たに評価すべき指標を提案するとともに、その評価ツールの臨床実装に向けた基礎的知見を提供する。今後、本質問紙の臨床実装に向けて、その妥当性の検証をさらに進めていく予定としている。

論文情報:【Cortex】Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits

大学ジャーナルオンライン編集部

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