岡山大学の山中玲子助教らの研究グループは、手術前後の「ガム咀嚼トレーニング」が、食道がん術後の口腔機能低下や、発熱などの術後合併症予防に有用であることを世界で初めて確認した。

 食道がん手術は、術野が頸部、胸部、腹部と広範囲で、侵襲が大きく、誤嚥などの術後合併症リスクが高い。手術後は、口腔機能が低下し、フレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)が急激に進行する。近年では、内視鏡やロボットによる低侵襲手術が行われ、術後合併症の低減が図られているが、術後合併症の予防は重要な課題だ。

 研究グループは、食道がん手術の前後それぞれ約2週間ずつガム咀嚼トレーニングを行ったグループ(ガム群)(3回/日、約5分間)と、ガムを噛むトレーニングを行わなかったグループ(対照群)を比較。その結果、ガム群は対照群より嚥下機能の評価指標の一つである舌圧が低下した患者の割合が76.0%から44.0%に有意に低下した。

 また、ガム群では、術後の舌圧低下予防に加え、手術によるダメージがあっても舌圧が向上した。さらに、ガム群では、術後の発熱期間が有意に減少。また、対照群よりも嚥下機能が有意に向上し、有意差はなかったが術後の誤嚥や肺炎が少ない傾向にあった。反対に、ガムを噛むことによると考えられる合併症やデメリットは観察されなかった。

 今回、専門的な口腔清掃に加えて、楽しく、簡単に、安価に実践できる「ガム咀嚼トレーニング」が、口腔機能を向上させ、術後の合併症を予防する可能性が示された。特に誤嚥リスクの高い、食道がん術後患者の安全性と有効性が確認されたことから、オーラルフレイルに悩む数多くの患者に役に立つ可能性があるとしている。

論文情報:【Scientific Reports】Perioperative gum-chewing training prevents a decrease in tongue pressure after esophagectomyin thoracic esophageal cancer patients: a nonrandomized trial

岡山大学

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