近年、動植物の新種に有名人や架空のモンスターの名前を種名として使うケースが注目を集めている。国立環境研究所は日本工営株式会社と総合研究大学院大学の研究者と共に、この手法が分類学や保全活動への一般の関心を高めるには有効だが、命名規約上の問題が生じうることを提起した。

 研究グループは一事例としてキングギドラシリス(Ramisyllis kingghidorahi)を取り上げた。これは多毛綱シリス科に属する環形動物の一種で、2022年に日本海で発見された。尾部が複数に枝分かれして怪獣キングギドラを想起させるため、その名前が種小名に使用された。Ramisyllisが属名で、kingghidorahiが種小名となる。国際動物命名規約(ICZN)では従来、主に著名な実在人物の個人名が使われていた。

 まず、献名を示すラテン語の接尾辞「-i」は男性単数に使用されるため、記載者がキングギドラを単独の男性と認識していることを意味する。しかし、キングギドラの性別に関する科学的根拠は存在しない。また、複数である可能性もある。キングギドラは映画ゴジラvsキングギドラ(1991)で3個体の組み合わせとして設定されている。それなら種小名の末尾は複数を表す「-orum」となるはず。

 さらに、キングギドラは映画ごとに起源や形態が異なる(機械化されたメカキングギドラも存在)。そのため、キングギドラは単一の個体や種の名前というより高次分類階級か一般名ということになり、接尾辞は類似を意味する「-oides」または「-formis」が適切となる。

 このように現行の分類学の国際的なルールではスムーズに解釈できない点が多い。生物多様性の保全のために、安定した学名と命名体系の保持が重要であり、今後、国際規約に対する深い議論と理解が一層求められるとしている。

論文情報:【BioScience】Rethinking nomenclatural acts: questions in taxonomy by the dedications to mythology and fictional monsters

大学ジャーナルオンライン編集部

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