上智大学などの研究グループは、自閉スペクトラム症(ASD)患者で一般的に観察される特性と、発達初期における男性ホルモン作用の低下との間に関連があるとする新たな研究結果を発表した。
これまで、『超男性脳(Extreme Male Brain)仮説』に代表されるように、ASDの主要な成因は発達初期の男性ホルモン過剰であると考えられてきた。しかし、男性ASD患者は男性的特徴が少ないなど、むしろ超男性脳仮説とは逆に、男性ホルモン作用の低下とASDに相関があるという報告も挙がっている。
そこで本研究では、発達初期の男性ホルモン作用の低下が想定される、クラインフェルター症候群の男性および出生時に男性と割り当てられた性的マイノリティ(自分の性別に違和感のある出生時男性)に焦点を当てた。これらの人と、ASDで一般的な特性である感覚過敏/鈍麻、サヴァン傾向、共感覚(ある感覚を刺激すると、無意識のうちに別の感覚が誘発される知覚現象)などとの関連を検討した。
その結果、クラインフェルター症候群患者では、対照群よりも高い感覚過敏/鈍麻の傾向を示すことが確認された。また、性的マイノリティでも、共感覚、サヴァン傾向、感覚過敏/鈍麻を有する傾向が対照群よりも高かった。
このことから、発達初期における男性ホルモン作用の低下に関連があるとされる状態が、ASD特性とも相関を認めたといえる。超男性脳仮説に真っ向から対立する結果であり、ASDの成因について従来とは異なる視座を提供したとしている。また、性別違和、共感覚、サヴァン傾向、感覚過敏/鈍麻に共通する生理学的背景が存在することも示唆された。自分の性別に違和感のある出生時男性において、共感覚やサヴァン傾向など、『強みにもなり得る特性』を有している傾向が高い可能性を示したことも、本研究の大きな収穫だ。
本研究グループは、この研究が、性的マイノリティや神経発達症の当事者たちの自己理解や周囲の理解を深め、エンパワメントにもつながりうる成果と考えている。