三重大学大学院の橋詰令太郎講師らの共同研究グループは、ダウン症候群の人の細胞から過剰な21番染色体を除去する画期的な手法を開発した。

 ダウン症は、通常2本の21番染色体が3本となっているトリソミーが原因で、知的発達障害などを合併。知的障害からほぼ全例で生涯規模の支援が必要となる。医療の発展により寿命は現在60歳を超えており、ダウン症者数は国際的に増加傾向にある。一方、知的発達障害への改善策はなく、過剰な染色体を細胞から有効に消去する技術もない。

 研究グループは、ダウン症者の皮膚から線維芽細胞を採取して樹立したiPS細胞から、染色体工学を応用して、3本ある21番染色体を1本ずつ削除したiPS細胞を3種類作出した。これらの細胞の全ゲノムシークエンスの結果をコンピュータ処理し、単一の21番染色体に特有のCRISPR/Cas9認識配列を抽出した。

 この情報から、標的21番染色体を複数箇所で切断するCRISPR/Cas9システムを構築してiPS細胞に作用させ、最大37.5%の頻度で標的染色体を細胞から消去できた。また、染色体消去率は染色体切断数に比例し、遺伝子修復の働きがある遺伝子の一時的な抑制で染色体消去率が上昇した。加えて、3本ある相同染色体の特定の1本を特異的に切断すること(アレル特異的切断)が、標的染色体の有効な消去に重要と判明。さらに、染色体が正常化された細胞では、遺伝子発現パターンなどの特性も正常に戻った。

 今回の成果は、ダウン症の根本的原因である余分な染色体を取り除く「染色体治療」の実現に向けた大きな一歩だ。様々な合併症の予防や改善への貢献、さらには、出生前診断にまつわる「生む・生まない」の議論に「治療する」という選択肢が加わることが期待できるとしている。

論文情報:【PNAS Nexus】Trisomic rescue via allele-specific multiple chromosome cleavage using CRISPR-Cas9 in trisomy 21 cells

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