解剖写真のSNS投稿が大きな話題になったように、「遺体」や「死後」の研究参加における身体の取り扱いや流通のあり方に多くの人々が関心を寄せている。死後脳研究は、神経疾患や精神疾患の解明のために重要な役割を果たすが、こうした研究活動には、死後に研究参加する意思を表明した市民・患者の存在が欠かせない。そこで、研究に協力する人の視点に寄り添い、その背景や関心をより深く知る作業が求められる。
こうした問題意識から、京都大学の井上悠輔教授らは、東京都健康長寿医療センターのブレインバンク(死後脳のバンク)への提供意思を登録した88名を対象に郵送調査を実施し、死後の身体提供の意向を表明した個人の想い・懸念に迫った。
52名から回答を得た結果、a)貢献・協力姿勢を支える要素と、b)一層の情報提供が期待される内容が明らかとなった。
aにおいては、協力の意向の背景として、「医学・研究に貢献したい」という思いが最も多く挙げられることがわかった。ただし、単一の背景というよりは、登録者の年齢・立場によっても異なり、「受けた医療への感謝」「家族・周囲の影響」など、複数の思いや動機が連なり、重なって死後の脳提供の意思表明に至っていることが多いことがわかった。
bにおいては、意思表明をした後も、参加者は研究の進展について継続的に関心を持ち続けていることがわかった。死後にどのような流れで提供がなされるかについて、家族への情報の充実を求める視点も持っていることが示された。
以上より、死後脳研究に参加する本人の関心や懸念に応じたコミュニケーションの重要性、家族向けガイダンスの充実や、研究成果の定期的な発信の重要性が明確になったとしている。井上教授らは、今後もインタビュー調査などを通じて、より検討を深める取り組みを続けるという。
論文情報:【Neuropathology】Bridging minds: Participant perspectives on postmortem brain research and engagement