日本工業大学基幹工学部応用化学科(4月から環境生命化学科)の池添泰弘教授は4つの永久磁石を組み合わせると、中心の2つの磁石の隙間で、水などの反磁性物質(磁石から反発力を受ける性質を持つ物質)の浮上が可能になることをシミュレーションと実験によって示した。将来的にこの技術は、宇宙で行われる実験の予備実験や材料プロセスの研究など、様々な実験が地上で手軽にできるようになると期待されており、米国物理学協会の論文誌への掲載や、応用物理学会での表彰など、学術界からも高く評価されている。
「永久磁石を利用して水を磁気浮上させる研究」と同等の実験を行うには、これまでは数千万~数億円の装置が必要とされていたが、池添教授の手法を使えば、市販の数百円の永久磁石(ネオジム磁石)を組み合わせるだけで極めて簡単に実現できる。
これまで、物体を浮上させる技術として、超電導、超音波浮上、光ピンセット、高周波電磁浮遊炉など様々な技術が開発されてるが、そのほとんどが、浮上位置を制御するための精密電子機器や、極低温・高強度レーザーなどの特殊な場を必要とする。
本研究で開発された永久磁石による磁気浮上技術は、安価な磁石を4つ組み合わせただけの単純な構造体で物体の浮上状態を実現できるだけでなく、「物体の浮上状態を維持するためのエネルギー消費がゼロ」という極めて優れた特徴を持っている。また、本手法で浮上した物体は、室温で、且つ静的な環境の中で、安全に、何日でも浮上状態を維持することが可能。さらに、水、ガラス、プラスチック、セラミックスなどの身近な物質を対象としており、非常に汎用性の高い技術でもある。宇宙の微小重力環境を利用した物体浮上技術と比較しても場所、費用、時間、利用機会などの観点から大きなメリットがある。
物体を浮上させる技術は医学、生物学、物理学、材料科学などの様々な研究に活用され、例えば、宇宙ステーションにおける重要な実験の一つとして、タンパク質の結晶育成が挙げられるが、今回の研究成果は宇宙で行われる実験と同様の実験が地上でも手軽にできることを示唆している。
これ以外にも、本研究は表面張力計、加速度計、粘度計など各種センサーへの応用や、溶融凝固プロセスや過冷却などの実験への展開が可能で、今後、新しいタイプの分析機器の開発や研究に利用されることが期待される。
※反磁性物質=磁石から反発力を受ける性質を持つ物質。水、生体、プラスチック、ガラス、セラミックス、木材、金、銀、銅など身の回りにある多くの物質が該当するが、反発力が非常に小さいので、日常生活で意識されることはほとんどない。