名古屋市立大学大学院の神農英雄助教らの研究グループは、米国チルドレンズナショナル病院やペンシルバニア大学などとの国際共同研究により、ヒトの新生児がもつ脳障害後の神経再生メカニズムを世界で初めて明らかにした。
生後の脳内では脳室下帯に神経幹細胞(自己複製能と多分化能を持つ未分化な細胞)が存在し、大脳白質のもとになるオリゴデンドロサイト前駆細胞が産生される。マウスでは、脳障害後にオリゴデンドロサイト前駆細胞が傷害部へ移動するため、脳室下帯の神経幹細胞は脳障害後の再生戦略に考慮される。一方、ヒト脳組織の研究は国内では倫理的理由などから非常に難しかった。
しかし今回、米国国立衛生研究所のニューロバイオバンクから提供されたヒト脳組織と、ヒト新生児と同様の脳構造を持つ新生仔ブタにより、解析が可能になった。
解析の結果、ヒトの新生児脳に特徴的な神経幹細胞「外側放射状グリア」(脳室下帯の外側に存在)の細胞増殖能力が脳障害後に増強し、大脳白質のもとになるオリゴデンドロサイト前駆細胞の産生が増加することを明らかにした。
また、網羅的遺伝子解析を通じて、細胞の増殖や生存に関わるATF5シグナル経路が外側放射状グリアの細胞増殖機能を調節することを解明した。そこで、新生仔ブタにATF5シグナル経路を活性化させる薬剤(サルブリナール)を経鼻投与したところ、傷害部での白質の再生と歩行機能の改善が促進した。
低酸素や虚血による新生児脳障害は依然として年間数千例発生している。今回示された脳障害の再生方法は、新生児脳障害の非侵襲的な治療法として実現可能性が高く、新生児脳障害の再生医療の実現が期待できるとしている。