芝浦工業大学工学部の堀顕子教授らの研究チームは、環境汚染の規制対象とされるナフタレンを認識するカラーセンサーの開発に成功した。

 ナフタレンは、工業用途や防虫剤等の化学製品で広く使われている化合物である一方、大気圏や水圏に拡散しやすく、長期間の暴露により健康に悪影響を及ぼす可能性があることから、環境省により基準が定められている環境汚染物質でもある。

 本研究チームは、ナフタレンの検出に向けて、ナフタレンだけに反応するカラーセンサーの開発を目指しており、今回、ピラジナセン誘導体という新しい分子が、ナフタレンと出会うと色が変化する仕組みを見出した。

 ピラジナセン誘導体は、電子を受け取りやすい性質を持つピラジナセン(アクセプター)と、電子を与えやすいトリフェニルアミン(ドナー)を組み合わせ、本研究チームが開発した有機化合物である。単独では分子内電荷移動により青色を示すが、ナフタレンを認識すると分子内よりも分子間で電荷移動が発生し、青色から赤色へと変化する。一般的な水や有機溶剤をかけても色は変わらない。ろ紙上や、大量に存在する水の影響で微量分子の検出が難しいとされる水溶液中であっても、微量のナフタレンに反応して選択的に検出することができるという。また、繰り返しの実験にも性能が落ちることはなかった。

 本研究成果は、大型の装置を必要とせず、手軽かつ迅速にナフタレンを視覚的に認識できる、新しいカラーセンサー技術の第一歩である。今後、環境保全や健康リスクの管理に向けて化学物質の追跡と検出に有望なアプローチとなることが期待される。

論文情報:【Chemistry – A European Journal】Colorimetric Detection of Naphthalene Enabled by Intra- to Intermolecular Charge Transfer Interplay Induced by π-hole···π Interactions of a TPA-Attached Pyrazinacene

大学ジャーナルオンライン編集部

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