「加齢に伴う骨格筋量および筋力低下」と定義されるサルコペニアは、整形外科疾患患者の術後の死亡率を悪化させるほか、機能回復の阻害要因となることが明らかとされている。
一方、サルコペニアの診断基準は、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)が採用している生体電気インピーダンス法(BIA法)などによる骨格筋量評価に基づくもの(AWGS2019)と、国際リハビリテーション医学会のサルコペニア専門部会(Sarcopenia Special Interest Group of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine:ISarcoPRM)が採用している超音波画像診断装置(超音波エコー)を用いた骨格筋量評価に基づくものがある。
BIA法は、急性期の整形外科疾患患者によくみられる外傷や手術の侵襲に伴う浮腫やインプラントなどの体内金属により、骨格筋量を過大評価してしまうという問題が指摘されている。超音波エコーは、これらの欠点を克服した手法として期待されている。
今回、畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の池本大輝さん、徳田光紀客員准教授、松本大輔准教授らは、高齢の急性期整形外科疾患患者のリハビリテーションにおいて重要なアウトカムとなる歩行自立度と、AWGS2019またはISarcoPRMの2つの診断基準を用いて判定したサルコペニアとの関連を調べた。
急性期病院に入院した65歳以上の整形外科疾患患者153名を対象に、入院あるいは術後3日以内にサルコペニアを判定した結果、AWGS2019を用いた有病率は36.6%、ISarcoPRMを用いた有病率は56.2%だった。
これらの患者の退院時の歩行自立度が、入院前より悪化したかどうかとサルコペニアの関連を比較した結果、AWGS2019によるサルコペニアは退院時の歩行自立度悪化と関連しない一方で、ISarcoPRMによるサルコペニアは退院時の歩行自立度悪化と有意な関連を認めた。
この結果から、ISarcoPRMによるサルコペニアの方が、歩行自立度との関連が強いことが示され、超音波エコーを用いた骨格筋評価の有用性が示唆されたといえる。高齢の急性期整形外科疾患患者では、ISarcoPRMを用いてサルコペニアを判定することで、退院時の歩行自立度悪化の予後予測の一助となることが期待される。