貧困が子どもの健康や発達に及ぼす影響は世界的に議論されており、貧困世帯の子どもへの支援が提唱されている一方で、我が国の相対的貧困率(国民全体の世帯所得の中央値の半分未満で生活する世帯の割合)は11.5%(令和3年度国民生活基礎調査の結果)と、先進国の中でも高い水準にある(OECD加盟国のうちデータが存在する37か国中19番目)。生活保護制度において、貧困世帯の生活および医療への経済的な支援は提供されているが、これらの支援が子どもの健やかな成長・発達を十分に保障できているかについては検証されていなかった。
そこで、京都大学の研究グループは、生活保護利用世帯の子どもの入院率を追跡し、生活保護利用世帯の子どもの健康実態や健康を損なうリスク因子を分析したという。対象は、データ提供に同意した日本国内6自治体(市)において2016年4月時点で生活保護を受給していた世帯の15歳未満の子ども1,990人とし、生活保護基本台帳データおよび医療扶助レセプトデータを活用した。
分析の結果、4.6%の子どもが1年以内に入院を経験していた。中でも0歳児の入院率が16.7%と最大で、21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)から得られる一般集団の子どもの入院率(非貧困世帯12.4%)を上回ることがわかった。
子どもが健康を損なうリスク因子の分析では、ひとり親世帯、ひとり親世帯でなくとも親が就労している世帯、出生時点で生活保護利用中の世帯の子どもで入院リスクが高い傾向を認めた。入院発生率には自治体間で差があることも判明した。
これらの結果から、生活保護利用世帯の子どもたちは入院リスクが高く、現行の生活保護制度による生活費や医療費の経済的な保障だけでは、特に乳幼児の健康リスクを十分に軽減できない可能性が示唆された。今後は、母子保健や養育に関する支援、世帯の状況に応じたテーラーメードな支援の立案が求められる。また、改正生活困窮者自立支援法において、経済的な支援にとどまらない子どもの学習・居場所・健康づくり支援などが議論されているが、その効果の検証も求められるとしている。