高齢期に新たに始めた楽器演奏を長期間継続することが、認知機能など脳の構造や機能の低下を防ぐ可能性があることが、京都大学大学院総合生存学館 積山薫教授(現・京都大学野生動物研究センター特任教授)らの研究で分かった。
京都大学によると、積山教授らは2020年に健常高齢者32人を対象に、初心者として4カ月間楽器演奏に取り組むことで認知機能が向上することを報告した。その後、4年後に同じ参加者を再度集め、楽器演奏を継続している13人(平均年齢77.85歳)と演奏をやめた19人(平均年齢76.00歳)に分けて、認知機能や脳の構造を調査した。
4年前の研究終了時点では両グループ間に認知機能や脳構造の有意差はなかったが、演奏をやめたグループでは短期記憶の一種である言語的ワーキングメモリの成績低下と、大脳基底核の被殻における灰白質体積の有意な減少が認められた。一方、演奏を継続しているグループにはこれらの変化は認められなかった。さらに、言語的ワーキングメモリ課題中の脳機能計測では、演奏継続グループでのみ小脳の広範な領域において活動増加が認められた。
被殻や小脳は加齢により萎縮や機能低下が起こりやすい部位であり、言語的ワーキングメモリは特に加齢の影響を受けやすい認知機能である。これらの結果から、積山教授らは高齢期に始めた楽器演奏の長期継続が認知機能の低下防止に効果的である可能性を示唆している。