慶應義塾大学の研究グループは、老化に伴う神経新生の低下機構を解明し、p38というタンパク質を強制的に発現させることで、マウスにおいて長期的に神経新生を促進して脳萎縮を防ぐことに成功した。
哺乳類では、成体においても神経細胞(ニューロン)が日々新たに産生されている(神経新生)。その源の細胞である神経幹細胞および神経前駆細胞は、加齢とともに減少し、新たに生まれるニューロンも減少することが知られているが、なぜ神経幹細胞・前駆細胞が老化に伴い減少するのかは、現在まで明らかにされていなかった。
本研究では、マウスを用いて、加齢による神経前駆細胞の自己増殖能低下の原因遺伝子がp38であることを突き止めた。p38は、神経前駆細胞に働きかけて細胞の自己増殖を活性化しているが、老化に伴いその発現が低下し、神経新生能低下の大きな原因となるという。
加えて、高齢マウスの側脳室周囲にp38を強制的に発現させると、神経前駆細胞が活性化され、前駆細胞の自己増殖、及び神経新生を促進できることを見出した。
これまでの神経再生研究では、神経幹細胞を活性化して神経新生を誘導する手法が用いられてきたが、神経幹細胞が分裂を繰り返した末に、枯渇を招くという問題点があった。一方、p38の発現を維持して神経新生を促す今回の手法では、p38は前駆細胞のみに作用し、神経幹細胞には影響しないことが分かっている。
実際に、側脳室脳室下帯においてp38を1年間にわたって強制発現したマウスの脳で神経幹細胞の枯渇はみられず、本手法により長期的に神経再生が可能であることが確認された。
本成果は、老化研究の側面だけでなく、認知症、うつ病など神経減少を原因とするさまざまな疾患での神経再生にも応用が期待される。