慶應義塾大学医学部解剖学教室の大石康二講師(非常勤)、仲嶋一範教授らの研究チームは、マウスの子宮内胎児の大脳皮質の神経細胞を、人為的に本来と異なる場所に配置させると、その環境によって異なる種類の神経細胞に変化することが分かりました。今後の細胞治療の開発につながるものとされています。

 大脳表面の大脳皮質は6層に分かれており、各層の神経細胞にはそれぞれ特徴があります。これまで、この神経細胞は産生時にどの種類の神経細胞になるかが運命付けられていると考えられてきました。今回の研究では、皮質第4層の神経細胞に特異的に発現する膜タンパク質(Pcdh20)に注目し、発生過程のマウス大脳でPcdh20の発現を阻害すると、阻害された神経細胞は第2-3層に配置されました。次に、神経細胞の移動を制御する細胞骨格タンパク質の発現を阻害し、本来第4層に配置されるはずの神経細胞を大脳皮質内に人為的に拡散させると、神経細胞は第4層や第2-3層でその場所に応じた特徴を示しました。さらに、Pcdh20と細胞骨格タンパク質をともに阻害した神経細胞を第4層に人為的に配置すると、第4層の特徴を持つ神経細胞へ分化しました。以上により、神経細胞の最終的な特徴付けに関係するのは、Pcdh20ではなく配置された場所の環境であることが判明しました。さらに、間脳の一部位である視床が伸ばす線維(視床皮質投射線維)が環境要因として働いているものとされました。

 今後の課題として、視床皮質投射線維と皮質第 4 層細胞の相互作用に直接関わる分子機構の解明や第4層神経細胞の各領野における細胞構築の違いの解明が重要だとしています。神経細胞が環境に応じて適切に分化する可能性があることから、さまざまな疾患に対する細胞治療の開発が期待されています。

慶應義塾大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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