北海道大学、関西大学、東京工業大学の研究グループは、モータータンパク質とDNAオリガミを組み合わせることで、化学エネルギーを力学エネルギーに直接変換する分子人工筋肉の開発に世界で初めて成功した。
モータータンパク質は、化学エネルギーを力学的な仕事へと変換するナノメートルサイズの分子機械で、アクチン上を動くミオシン、微小管上を動くキネシンやダイニンが知られている。バイオテクノロジーの発展によりモータータンパク質の合成が可能となり、エネルギー変換効率と比出力特性が高いため、マイクロマシンや分子ロボットの動力源として期待されている。しかし、ナノメートルサイズのモータータンパク質を秩序立てて目に見える大きさにまで組み上げることはこれまで不可能だった。
今回の研究では、DNAナノテクノロジーによりDNAオリガミ構造体(DNAの折りたたみ技術[origami]による構造体)を、バイオテクノロジーによりDNA修飾微小管を作製。これらを混合させると微小管が放射状に集合化した「アスター構造」が形成された。これにキネシン(ストレプトアビジンタンパクで四量化)を加えると、アスター構造がさらに集合化して、ミリメートルサイズの網目構造が形成された。最後に、アデノシン三リン酸(ATP)を加えると、元の大きさの1/40にまでなる急激な収縮運動が観察された。この収縮系は「分子人工筋肉」であり、人のからだで心臓や内臓などを動かしている平滑筋という細胞を模倣したものという。
これにより、化学エネルギーで駆動するミリメートルからセンチメートルサイズの動力システムが実現し、将来的には医療用マイクロロボットや昆虫型ドローンなどの動力源として期待されるとしている。