中部大学の山本尚教授らのグループが、ペプチド(タンパク質断片)の効率的な新しい合成法の開発に成功し、ペプチドを骨格に用いる中分子医薬品の低コスト化に道を拓いた。
現在の主流である小分子医薬品は、安価で患部に届きやすい一方、患部以外にも行きわたって副作用の原因となりやすい。そこで今後は、標的だけに作用し、ちょうどよい寸法とされる中分子のペプチド医薬品が主役となると期待されているが、ペプチドの合成コストの高さがボトルネックとなり、ほとんど実用化がされていない。
本研究では、ルイス酸と呼ばれる特殊な触媒を用いることで、圧倒的な安価で高純度のペプチドを得る合成法を開発した。従来の直線的固相合成とは異なり、収束的液相合成に成功したため、工程数を大幅に減らすことができ、従来法の1000分の1以下の生産コストを実現した。また、これまでは防ぐことができなかった「ラセミ化」(異物となる光学異性体ができて混ざること)も起きないため、純度の高いペプチドを大量に市場に提供できるようになるという。加えて、従来法では避けられなかった排水や有害物質等の環境負荷廃棄物がほとんど生成せず、環境にも極めて優しい手法だ。
本成果はペプチド医薬品の本格的な実用化につながるばかりではない。ペプチドの応用分野は一般材料から電子部品にまで広がる。安価なペプチドが入手可能になれば、鉄や炭素繊維より強いと言われるペプチド線維の他、今後様々な素材、化粧品、農薬等の産業にも幅広く活用されていくことが期待される。