首都大学東京と岡山大学、カリフォルニア大学リバーサイド校、東京大学らの研究チームが、甲虫「オオツノコクヌストモドキ」の“武器”である大アゴのサイズ制御を行うホルモンを発見した。
一般に、動物や昆虫の武器や装飾は体サイズに応じて変化する。大型の個体では大きくなる一方、普段は邪魔かつ維持エネルギーもかさむことから、成長期に栄養条件が悪かった小型の個体では小さくなる。これに対して、生存・繁殖に必須の器官は、体サイズに関わらずほぼ一定のサイズが確保される。
体の一部だけが高い栄養応答性を持つメカニズムの一つとして注目されているのが、栄養条件に応じて血糖値や代謝、細胞の成長や分裂を制御するインスリンやインスリン様成長因子に代表されるペプチドホルモン(インスリン様ペプチド、Insulin-like peptide、ILP)だ。
最近のゲノム研究から、昆虫は種に応じて多様なILPを持つことがわかっており、各ペプチドが“役割分担”をしている可能性が指摘されている。その機能はほとんどわかっていないが、本研究者らは、特定のILPが昆虫の武器サイズを制御しているとみて、大アゴを武器として闘う甲虫「オオツノコクヌストモドキ」のゲノム解析を行った。
結果、オオツノコクヌストモドキが5種類のILPを持つことが見出され(ILP1-5)、そのうちの1つであるILP2は、幼虫の栄養条件に応じて生産されていることがわかった。さらに、ILP2遺伝子の発現を抑制すると、大アゴは通常の半分以下のサイズになり、栄養条件に応じた大アゴの成長が消失した。このことから、ILP2が体内の栄養条件と武器発達をつなぐメッセンジャーとして働くと考えられた。
本成果は、ILPが武器の発達に特化した事例の初めての発見であり、ILPが昆虫の形態的多様性をもたらしている可能性を示唆している。