東京大学の山岸純平大学院生らの研究グループは、細胞成長を抽象化した数理モデルにより、成長に不可欠な代謝物を漏出するとその細胞自身の成長がかえって促進されうることを初めて示し、その仕組みを理論的に解明した。

微生物は栄養成分を取り込み成長しながら、多くの代謝物を環境中へ漏らしている。単なる毒や細胞成長に不要なゴミだけでなく、細胞成長に不可欠な代謝物も漏出している。これは細胞に不利益にみえるが、細胞が必須代謝物漏出を妨げるように進化しなかった理由は未解明だった。

 研究グループは細胞の状態を内部の化学成分群の濃度として表し、その状態が化学反応・化学成分の漏出・体積成長に伴う濃度希釈によって時間変化するような力学系モデルを定式化した。化学成分の漏出が定常状態の細胞の成長率に与える影響を計算機によりシミュレーションした。

 その結果、細胞内部の化学反応ネットワークに触媒反応などの多体反応がある場合、ある代謝物が細胞成長に不可欠でも、その漏出が成長率を上昇させうることが分かった。また、ある反応物が漏出すると他の化学反応速度が相対的に上昇するという「多体反応のフラックス制御」、並びに化学反応とバイオマス生成に伴う濃度希釈間のバランスに関する「成長-希釈間のバランス制御」という成長率を上昇させる二つの仕組みを明らかにした。

 漏出された必須代謝物は他の細胞種にも有用なため、多くの細胞種の間での漏出代謝物のやりとり、微生物生態系の多様性・共生の起源の解明に役立つ。また、代謝物漏出による成長促進の仕組みは、細胞などの成長するシステムの一般的性質に起因し、生命系や社会系に広く適用できると期待される。

論文情報:【Physical Review LettersAdvantage of leakage of essential metabolites for cells

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