鉄を水中に置くと徐々に錆びていくが、条件によっては表面に黒錆の被膜が形成され、それ以上錆が進行しなくなることがある。
このような「鉄を守る錆」の形成がどのように進行するのか、ことに1秒より早い過程では測定手段が無く、これまで明らかにされていなかった。

 今回、東北大学大学院理学研究科の若林裕助教授のグループは、高速X線反射率測定を用いることで、赤錆を食い止める黒錆が形成される過程を解明することに成功した。通常のX線反射率測定では、数分から数十分の時間を要するが、大型放射光施設SPring-8の表面X線回折ビームラインを用い、得られた実験結果をベイズ推定の手法で解析する事で、これを20ミリ秒まで高速化し、被膜形成過程の実時間観測を実現した。

 観測された鉄の不動態化の初期過程は、まず膜の厚さを増加することが優先され、欠陥の多い厚い膜を形成してから、次に膜内部の原子配列を整えるという順番で起こっていた。被膜形成開始から2秒後以降は従来から提唱されていた理論で説明することができたが、最初の2秒間はこの理論から外れた振る舞いだった。また、膜成長の速度を決める因子が最初の1秒と後の時間で異なることも見出された。

 本研究は、鉄や多くの金属材料の表面を保護している不動態被膜の形成過程を実験的に観測し、その原子レベルでの成長過程を解明したものだ。この知見は、固液界面での化学反応の理解を従来とは異なる角度で深めるもので、今後、物理的な理解が難しいと言われる固液界面の化学反応に関する研究に新しい情報が加わることが期待される。

論文情報:【Physical Review Materials】Early stages of iron anodic oxidation: defective growth and density increase of oxide layer

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