京都大学の篠原隆司教授らの研究グループは、精子幹細胞を自家移植して先天性男性不妊症を治療できることをモデルマウスによる実験で発見した。
精子幹細胞は毎日膨大な数の精子を作り続ける。精巣は細長い精細管というチューブがつながった構造が基本で、この精細管内にあるセルトリ細胞は、血液精巣関門と呼ばれる構造により密接に隣のセルトリ細胞に結合し、血液中の細胞や分子が精巣のチューブ内に侵入するのを妨げる。遺伝子欠損マウスの解析から、血液精巣関門が破綻すると、精子形成中に起こる減数分裂の停止や精子に対する自己免疫疾患の発症を生じる。
研究グループはこの血液精巣関門の構成に必須のCldn11 分子に注目。Cldn11 欠損マウスは精子形成が減数分裂の途中で停止し、先天的に不妊になっている。Cldn11 があると血液細胞ですら血液精巣関門を通過できないので、Cldn11 を除去すれば、より大きな精子幹細胞の移植効率を改善できると考えた。
そこで、このマウスの右側の精巣細胞をバラバラにし、左側の精巣の精細管内に移植すると精子形成が回復した。精巣には Cldn11 のファミリー分子(Cldn3、Cldn5) も発現している。そこでこれらの分子の発現を抑制したところ、精子形成を回復できた。こうして生じた精子を用いて顕微受精を行うと、外来遺伝子の入っていない正常な子孫が得られた。
これらの結果は血液精巣関門が精子形成に必要という従来の見解を覆し、先天的な不妊症でも一定の可塑性があり妊娠する力を回復できる可能性を示す。一般に幹細胞移植は正常な幹細胞を正常な環境へ移植して治療する手法だが、今回のように異常組織の自家移植で治療できるなら他の組織でも同様の治療可能性があるとしている。