東北大学の研究グループは、超高純度鉄は表面処理を施さずに、各種の哺乳類培養細胞を接着、増殖させる基質となることを明らかにした。新たな医療資材、細胞培養基質としての利用が期待される。
金属材料は、人工歯根(インプラント)、骨を固定するプレートやボルト、血管や消化管の補強・拡張用のステントなど広く医療用資材として利用される。しかし、長期間の体内移植で溶出する微量金属の有害な影響、金属毒性や金属アレルギーの発症、移植後の周辺細胞や組織との接着性、適合性の弱さなど負の面がある。
鉄は生体内に最も多く存在する必須の金属元素の1つだが、鉄イオン過剰は細胞毒性があり、腐食性の高い汎用純鉄などは生体材料に使用できなかった。
研究グループは、知られている鉄の性質は多種多量に含まれる不純物元素でマスクされた性質だと気付き、30年を掛け革新的超高純度化技術を開発。鉄本来の性質を追求し、純度99.9996%±0.0003%の超高純度鉄(ABIKO-iron)を精錬し予想を超える可塑性や耐食性など新奇の特性を証明してきた。
今回、AbikoIronの金属表面での様々な哺乳類培養細胞の細胞接着性と増殖活性、細胞分化能の3つの観点から生体適合性を調査。その結果、Abiko-Ironは、細胞接着性に優れ、金属表面での細胞増殖、さらに、分化誘導培地に培養液を代えるとそれぞれ筋芽細胞から筋管細胞へ、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化も誘導できた。
また、各種遺伝子発現の解析でも、生体毒性や重金属ストレス応答などネガティブな遺伝子発現を誘導しなかった。これにより、高い安全性と生体適合性を有した革新的なインプラント材、プレートやボルト材、ステント材等への新たな医療資材としての利用が期待できるとしている。