国内の大手企業に勤務する若手技術者の理数系基礎学力が低下していることが、神戸大学社会科学系教育研究府の西村和雄特命教授らの調査で明らかになりました。研究結果は京都大で開かれた「科学教育イン京都2015」で発表されましたが、国内大手企業の技術開発を担う若手社員の基礎学力低下は、激しさを増す企業間の国際競争に暗い影を投げかけそうです。
神戸大学によると、調査は東京証券取引所に1部上場した製造業9社の20代の技術者1,226人を対象に2014年度に実施されました。高校で習う初歩的な内容の物理、化学、電気の基礎問題11問の解答を求めたところ、平均点は100点満点中56.66点にとどまりました。高校時代に数学Ⅲ、物理を履修した人の得点が高く、大学入試で比較すると、一般入試、AO入試、推薦入試の順に平均点が高くなる傾向があったそうです。
これらの問題の中には、中学入試でも頻繁に出題され、優秀な小学生なら正答できるものも含まれていました。出題側は技術用語を除けば、文系出身者でも回答できるレベルに設定していました。しかし、「9-3÷1/3+1」という計算問題では、正答率が6割を切りました。1980年代には中部地方の企業内調査でこうした四則計算の正答率が9割に達していただけに、学力水準の明らかな低下があらためて浮き彫りになった形です。
多くの企業では現在、基礎学力を持つベテラン技術者と持たない若手技術者が共同で作業している状態。若手向けに基礎学力の授業や講習を開く企業が増えていますが、ベテラン技術者が退職したあと、日本のものづくりがこれまで通り力を発揮できるのか、首をひねる声も上がっています。
西村教授は大学入試の多様化で、本来学んでおくべき数学Ⅲや物理を学ばずに大学進学できる点に問題があると指摘したうえで「機械工学の4大力学が必修でなくなるなど大学のカリキュラムにも問題がある」と指摘しています。