科学技術振興機構は2020年度の「大学発ベンチャー表彰」の受賞者を発表した。

 7年目を迎える大学発ベンチャー表彰は、大学等※における研究開発成果を用いた起業および起業後の挑戦的な取り組みや、大学や企業等から大学発ベンチャーへの支援等をより一層促進することを目的としている。また、経営者が40歳未満かつ設立後3年以内の企業のうち、今後の大きな活躍が期待できる大学発ベンチャーとその支援者を対象とした「アーリーエッジ賞」を設定し、若手経営者の挑戦も支援している。

 今回「文部科学大臣賞」は、大阪大学微生物病研究所と共同で腸内細菌叢の検査・解析を「安価、迅速、正確」に実施できるプラットフォーム技術を開発した株式会社サイキンソーが受賞。腸内細菌叢のDNA検査サービスのパイオニアとして、これまでに無いソリューションを提供する技術であり大学、企業との連携によって着実に事業を進めている点が評価された。既に2万件の個人向け検査の実績を持っており、これからの他サービスへの展開も含めて今後大きく成長することが期待されている。

 「経済産業大臣賞」は、東京理科大学工学部機械工学科小林宏教授が菊池製作所と2013年に創業した株式会社イノフィスが受賞した。東京理科大学TLOと連携し、関連技術は将来の事業を視野に入れ大学単願で特許を出願。イノフィスが占有実施権を有することが可能となる。現在、小林教授は取締役として先頭に立ち技術開発を推進している。事業会社・アカデミアとのアライアンスを構築し、顧客ニーズを製品改良に素早く取り入れる高速サイクルを実現しており、このような連携を活かして事業化を進めている点が高く評価された。

 「科学技術振興機構理事長賞」を受賞したのは株式会社Xenomaだ。東京大学・染谷隆夫研究室/JST ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトのスピンオフとして設立。着用するだけでヘルスケアデータを取得できるスマートアパレルを実際に製品化し、事業として成立させた。さらに経営方法においても日本だけではなくグローバル展開を目指した組織体制・経営方法で推進している点が高く評価された。

 「アーリーエッジ賞」は、株式会社アグロデザイン・スタジオが受賞した。タンパク質結晶構造解析を活用した安全性の高い農薬の研究開発を行っており、東京大学産学協創推進本部イノベーション推進部ディレクター宮脇守氏が支援している。創“農”薬という分野に挑戦し、研究者自らがアントレプレナーシップ講座への参加を経て研究成果の社会実装のために起業をしており、これまでの資金調達や事業体制推進などの一連の流れが評価されての受賞となった。これまでに無い分子標的農薬をデザインするものであり実用化による大きな社会的インパクトの創出を期待されている。

 このほか「新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長賞」はディープラーニングを用いた音声認識・自然言語解析の事業とAIでの異音検知事業を提供するHmcomm株式会社、「日本ベンチャー学会会長賞」はAI人材育成事業、コンサルティング事業、R&D事業を一体で行い、AIに関するソリューションを提供するNABLAS株式会社が受賞した。

※大学等は、国公私立大学、高等専門学校、国立試験研究機関、公立試験研究機関、国立研究開発法人、公益法人等の非営利法人

参考:【国立研究開発法人科学技術振興機構】大学発ベンチャー表彰2020 受賞者一覧

大学ジャーナルオンライン編集部

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