熊本大学の岡田誠治教授と刈谷龍昇博士(特任助教)らの研究グループは、株式会社キュオール、九州オルガン針株式会社と共同で、簡便でマウスに苦痛を与えない生体組織移植針キットを開発、特許・意匠の申請を行った。
現在日本人の2人に1人が一生のうち何らかのがんにかかり、3人に1人ががんで死亡する。がん患者を救うには、がんの病態解析や新規治療法の開発が重要であり、そのためにがん患者の病態を忠実に再現した動物モデルの樹立が必要不可欠だ。
動物モデルの樹立は、簡便で可能な限り動物に苦痛を与えない方法が望ましい。近年、外科手術で摘出されたヒト腫瘍組織を高度免疫不全マウスに直接移植して作成される患者腫瘍組織移植(PDX)モデルが開発され、抗がん剤の開発成功率の上昇が期待されている。しかし、PDXモデルの樹立には、麻酔下のマウスの皮膚を解剖用はさみで切開し、ピンセットでヒト腫瘍組織塊を皮下に移植した後、縫合またはクリップで切開部位を接着する方法を用いるが、皮膚を切開するためマウスに大きな苦痛を与える。
今回、研究グループは、PDX腫瘍組織移植に適した生体組織移植針キット「Ez-Plant」を開発。この移植針の側面に移植片充填口を設けた。ここからヒト腫瘍組織塊を充填した後、移植針を皮下に挿入して腫瘍塊をマウス皮下に押し出すことで皮下移植を行う。この移植針を用いると、マウスの皮膚には非常に小さな穴しか開かないため、マウスに長期的な苦痛を与えない。
開発した生体組織移植針キットは、今後抗がん剤の開発に利用されるPDXモデルの樹立を効率化し、マウスに苦痛も与えないため、ヒトがん患者の予後だけでなく動物愛護にも貢献することが期待される。
参考:【熊本大学】マウスに苦痛を与えない生体組織移植針キット Ez-Plant を開発!―マウスへのヒト生体組織の移植が簡便に―(PDF)