山口大学共同獣医学部の水野拓也教授・伊賀瀬雅也助教の研究グループは、日本全薬工業株式会社と共同で、犬の悪性腫瘍に対する抗犬PD-1犬化抗体医薬を開発した。医師主導臨床試験で進行がんの一部に効果を認めた。

 PD-1分子やPD-L1分子は免疫チェックポイント分子(免疫系を調節する分子群の総称)の一種で、リンパ球上にあるPD-1分子が腫瘍細胞にあるPD-L1分子と結合すると、リンパ球は腫瘍を攻撃できなくなる。この2つの分子の結合を妨げる抗体医薬を投与して、リンパ球に再度腫瘍を攻撃させる方法が免疫チェックポイント分子阻害療法だ。

 ヒトでは免疫チェックポイント分子に対する抗体医薬を用いた免疫チェックポイント分子阻害療法が開発され、さまざまな悪性腫瘍の治療薬として使用されている。犬のがんには、外科手術・放射線・抗がん剤などの治療が行われるが、効果がない場合や進行がんの場合は他に有効な手段がなく、犬のための免疫チェックポイント分子阻害抗体はまだ開発されていなかった。

 今回研究グループは、以前開発した、犬PD-1分子に特異的なモノクローナル抗体を基に、遺伝子組換え技術により、犬の悪性腫瘍に対する抗犬PD-1犬化抗体を作製。本抗体医薬は、犬のPD-1とPD-L1の結合を阻害し、さらに犬化により免疫原性を低くすることで長期的な投与を可能にした。動物医療センターに来院した進行期の悪性腫瘍の犬合計30例に投与したところ、肺転移を認めたステージ4の口腔内悪性黒色腫15例中4例(26.7%)に奏効がみられ、それ以外の腫瘍にも一部効果を認めた。

 今回の研究成果により、本治療法が犬の悪性腫瘍の治療法としての有用性が示され、今後幅広い症例を用いた臨床試験における効果検討が期待される。

論文情報:【Scientific Reports】A pilot clinical study of the therapeutic antibody against canine PD-1 for advanced spontaneous cancers in dogs

大学ジャーナルオンライン編集部

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