筑波大学の恩田裕一教授らの研究グループは、日本原子力研究開発機構や福島大学などと共同で、福島の環境モニタリング研究の多数の論文を網羅的に集約し、放射性セシウムによる陸域汚染の実態と環境回復の全貌を解明、チェルノブイリより速い回復を認めた。
東京電力福島第一原子力発電所の大規模事故では、半減期が比較的長い放射性セシウム137(137Cs)を含む放射性物質が大量に放出。事故直後から多くの環境モニタリング研究が実施されたが、これらを客観的に総括・検証した論文はなかった。
研究グループは、福島の陸域(同原発から80km圏内と阿武隈川流域の計9862平方km、137Cs降下量は2.7PBq)での放射性物質の移行に関する210本以上の論文を集約・検証した。
137Csの樹木への蓄積割合は、常緑針葉樹林では事故後8年間で70%から2%程度まで大幅に減ったが、落葉広葉樹林では23%から21%と減少は緩やか。また、林床では、スギ林・落葉広葉樹林とも表層土壌(2cm以内)に5割以上の137Csがとどまる。
森林以外では、137Csの表層土中濃度が大きく減少、137Csの土壌中での下方移行が速く進んだ。耕作放棄水田での土壌表層137Cs濃度は、事故後3年間で約7割減少し、その後の除染で3%まで下がった。同様に、耕作水田では10%に低下。阿武隈川を流下する懸濁態の137Cs濃度は事故直後の2%程度。
チェルノブイリ事故との比較では、福島の方が下方移行や表層土中の濃度の低減が速い。また、福島の河川は欧州河川より2桁程度も汚染度が低く、淡水魚では1、2桁低いレベルの汚染状況で、回復が早い。福島の降水量の多さなどの自然環境や人間活動・除染作業などの差によるとみられるが、今後も長期モニタリングの継続が必要としている。