凍らせて、混ぜて、溶かすだけというごく簡単な工程で得られ、かつ環境にやさしい高強度ゲル材料を、日本原子力研究開発機構、東京都立産業技術研究センター、東京大学のグループが開発した。
近年、環境中に残留するプラスチック由来の環境問題を解決するために、バイオマス素材を活用した、自然環境の中で分解可能な生分解性材料に関心が高まっている。一方で、多くの生分解性材料では強度や成型性に弱点があり、用途範囲が限定されてしまうことが課題となっていた。
この課題に対して、本研究グループは、水の凍結時に生じる物質の凝集挙動に着目した。セルロースナノファイバーの一種であるカルボキシメチルセルロース(CMC)ナノファイバーをクエン酸と混ぜ合わせるとゲルができるが、CMCナノファイバーを“凍らせて”、クエン酸溶液を混ぜ、溶かすことにより、高い強度と成型性を有するゲルを生成できることを見出したという。
高強度なゲルになった理由は、溶液の凍結時に氷晶の周囲に形成されたCMCナノファイバーの凝集体が、そのままクエン酸と反応し、強固な三次元ネットワーク構造のゲル骨格となるためと考えられる。この「凍結架橋セルロースナノファイバーゲル」は、2トンの圧縮負荷にも耐える世界最高レベルの強度を持ち、さらに様々な三次元形状に成型できる高い成型性を示した。加えて、汚染水から有害物質を回収する吸着剤としても有用である可能性が高いことも判明した。
木材などから得られる“セルロース”、レモンなどに含まれる“クエン酸”、そして“水”という自然由来の素材のみを利用して高強度なゲル材料の開発に成功した本成果は、環境に残留しないプラスチック代替材料や環境浄化材料、今までにない再生医療材料など、様々な用途への応用が期待される。