東京大学大学院医学系研究科の間野博行教授らのグループは、AYA 世代の最も多いがんの一つである B 細胞性急性リンパ性白血病の約 65%について、その原因となるがん遺伝子を解明したと発表しました。

 AYA 世代(adolescence and young adult)と呼ばれる思春期から若年成人(15 才から 39 才)のがんの多くは原因不明です。中でも B 細胞性急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia: B-ALL)は AYA 世代に最も頻度の高いがんの一種ですが、9割近くが原因不明なままでした。

研究グループは、AYA 世代の B-ALL 患者 73 例の 白血病細胞を次世代シーケンサーにより網羅的に解析し、B-ALL の約 65%の症例に何らかの融合型がん遺伝子が存在することを発見しました。そのうち、全く新しいがん遺伝子であるDUX4-IGH 融合遺伝子が最も多く(約 16%)見られ、2 番目にZNF384融合遺伝子、3 番目に新規 MEF2D融合遺伝子が多く見られました。

 DUX4遺伝子と発がんとの関連はこれまで不明でした。しかし今回の解析により、AYA 世代 B-ALL では、DUX4 遺伝子が、後ろ側が削れた上で免疫グロブリン遺伝子 H 鎖(IGH)座に挿入されて融合(転座)し、大量のDUX4-IGH融合タンパクが産生されることを明らかにしました。この融合タンパク質には強力な発がん能力があり、DUX4-IGH融合タンパクをネズミのB細胞で産生させるとネズミは白血病を発症すること、またDUX4-IGHを持っている B-ALL 細胞株で DUX4-IGH の発現を低下させると細胞死が誘導されることも確認しました。また、DUX4-IGH はAYA 世代に特異的に存在し、小児や成人の B-ALL では検出例は極めてまれでした。さらに DUX4-IGH あるいは ZNF384 融合型がん遺伝子を有する白血病は予後良好群(長期生存が期待できる患者群)に属し、MEF2D 融合型がん遺伝子陽性の白血病は予後不良群(生存期間が短い患者群)に属することも明らかにしました。

 今後、 DUX4-IGHの働きを抑制することにより革新的な治療法の開発が期待でき、また DUX4-IGH を含む融合遺伝子群が新たな予後予測バイオマーカーとなるとしています。

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