2015年8月5日
神戸大 金融危機のリスクを低くするには
神戸大学経済学研究科の小林照義准教授らは金融危機発生の新たなメカニズムを提案しました。銀行間で優先度が異なる債務を抱えあう状態を多考慮することでリスクを低く保つ条件を導き出しました。
2008年のリーマンショック以降、金融市場のシステムに潜むリスクに関する研究が多くなされてきました。多くの研究で用いられてきたモデルでは取引する人が行動の判断材料を持たないとき、他者の行動を真似することを考慮します。多くの投資家はそれぞれ新しい情報を収集しようと努めていますが、情報が途絶えた際には誰かのわずかな行動から一気に売り注文や買い注文が殺到することが示されています。こうした金融取引のモデルを上流から下流に滝が流れることになぞらえカスケードモデルと言います。カスケードモデルは広く用いられてきた一方で、不十分な点が存在することも指摘されていました。
ある金融機関が倒産した場合、優先順位の債権者は残りの資産から返済を受けることができますが、低い債権者は返済が受けられません。従来の金融危機モデルではこうした優先度によるリスクは考慮されていませんでした。小林准教授らは債権優先度ごとの階層構造を考慮したカスケードモデルを構築することで、債券優先度に起因するリスクを明らかにしました。さらに金融危機の危険性を低く保つための条件も解析し、優先度の高い債務が市場全体の50%以上であることが必要であることを明らかにしました。
現在世界の金融規制は国際決済銀行(BIS)に設置されているバーゼル委員会によって決められ、各国がシステム面でのリスクを回避するための対策をしています。しかし、多くの研究で債務の優先度の差によるリスクがこれまで考慮されてこなかったため、今後の対策を考え直すことが急務となるでしょう。今回の研究結果は世界の金融市場の新たな秩序を作るきっかけとなるかもしれません。