池間島、伊良部島など八つの島々からなる宮古諸島に住む人々は、古くても1万年前以降に沖縄諸島から移住したと推定されているが、その由来については明らかになっていない。琉球大学では、内閣府、文部科学省、沖縄県の支援を受けた「沖縄バイオインフォメーションバンクプロジェクト」で、ゲノムDNAなどの生体試料、ゲノム情報、臨床検査情報等の収集・解析を進めており、今回、宮古諸島の1240名のゲノム解析を行った。
集団遺伝解析から、沖縄本島と宮古諸島は遺伝学的に独立の集団を形成し、宮古諸島内でも宮古島北東部・宮古島南西部・池間/伊良部島の3つの集団に分類できることがわかった。このように比較的狭い地域の中で遺伝背景の異なる集団が存在する例は世界的にも非常にまれだ。
また、ゲノム情報をもとに宮古諸島内の地域集団の過去の人口動態について解析したところ、池間/伊良部島の集団は約10~15世代前(250~300年前)に急激な人口の減少を経験していることがわかった。この減少は1771年に起こった明和の大地震とそれに伴う大津波による被害を反映している可能性がある。
さらに、遺伝情報の流れ(gene flow)を推定することで、宮古諸島外の集団との交流についても調べた結果、宮古島の集団は沖縄島などの外部からの遺伝的交流の影響があることがわかった。
最終的に、これらの結果を総合し、シミュレーション解析による集団史の推定を行ったところ、池間/伊良部集団はグスク時代(約38~57世代前)の外部からの移住に由来して祖先琉球集団から分岐し、宮古島集団は琉球王朝時代前後(南西部集団は約10~27世代前、北東部集団は約2~18世代前)に沖縄島集団と分化したと推定された。
これらの成果は、琉球列島出身者の由来や過去の歴史を考える上で重要なだけでなく、ゲノム情報をもとに沖縄県民の体質に合わせた個別化医療を推進する上でも役立つ可能性がある。