人間社会において、他者との協力動作は不可欠だ。しかし、他者との協力動作を円滑に行うために、自己と他者の行動がどのようなメカニズムで相互作用し調整されているかは明らかになっていない。
近年の理論研究において、“目的共有”が自己と他者の行為観察に基づく予測プロセスに影響し、協力動作を円滑にする可能性が提案されていることに着目し、今回、畿央大学大学院博士後期課程の林田一輝氏と森岡周教授は、この可能性を行為主体感の観点から検証した。行為主体感とは、ある行為やそれに伴う結果が自己に帰属する感覚を指し、その惹起には予測プロセスが強く影響することから、目的共有により行為主体感が変調する可能性が考えられる。
実験では、目的共有する2人1組のペア(協力群13ペア)と目的共有しない2人1組のペア(独立群13ペア)に参加者をランダムに分け、同じ運動課題を実行してもらい、運動の精度と行為主体感を比較した。その結果、協力群の方が、独立群と比較して、自己生成行為時と他者行為観察時の課題いずれにおいても行為主体感が増幅していた。さらに、協力群の方が課題の運動精度が高くなっていた。
すなわち、本研究により、目的共有が目的非共有と比較して、運動の精度を向上させ、行為主体感を増幅させることが明らかとなった。他者と目的を共有することによって、行為主体感が変調する可能性が示唆されたと言うことができ、本成果は今後、社会的な行為結果の帰属変容プロセス解明の一助となることが期待される。