東京工業大学地球生命研究所の玄田英典特任准教授らの国際共同研究チーム(他に神戸大学、ベルギーやフランスの研究機関・大学)は、火星の衛星フォボスとディモスが月の起源と同じように巨大天体衝突で形成可能なことを、コンピュータシミュレーションによって明らかにしたと発表した。
火星には2つの非常に小さな衛星フォボスとディモスがある。この火星衛星の形成に関し、小惑星が火星の重力に捕獲されたとする捕獲説があるが、現在の衛星軌道の説明が難しいとされる。別の仮説に巨大天体の衝突で形成されたとする巨大天体衝突説があり、火星の北半球に存在する太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)はその衝突によるものとみられるが、衛星の具体的な形成過程は不明だった。
今回、研究チームはボレアレス平原を形成する巨大衝突過程の超高解像度3次元流体数値シミュレーションを実施した。その結果、天体衝突で破片が飛散し、火星の周囲に円盤が形成。その円盤物質が集まってできた巨大衛星が、円盤外縁部を自身の重力でかき混ぜて、フォボスとディモスの形成を促進した。その後、巨大衛星は火星の重力に引かれて落下して消失、現在観測される2つの衛星だけが残った。しかし、衝突する天体が惑星本体に比べて大きくなると、落下せずにさらに遠くを回って月のような巨大な衛星になるという。
シミュレーションでは火星衛星が火星本体から飛散した物質を多量に含むはずで、実証には、実際に火星衛星から物質を採取して分析する必要がある。現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が火星衛星サンプルリターン計画(2020年代の打ち上げ)を検討している。実現すれば火星衛星の起源解明につながると期待される。