京都大学こころの未来研究センターの千島雄太特別研究員らの研究グループは、未来の自分を想像して手紙を書くことによりネガティブ感情が減少することを実験により明らかにした。
コロナ禍での人々のネガティブ感情の高まりが指摘されている。本研究では、未来について考えることはネガティブ感情を軽減するという仮説を立て、未来の自分を想像して手紙を書くことの効果を実験的に検証した。未来の自分に手紙を書く課題は、貯蓄行動、道徳的な判断、健康促進行動などでは有効性が示されてきたが、メンタルヘルス分野では検討されていなかった。
データは、2020年4月13日~15日にオンラインで取得され、738名の実験参加者が1年後の自分へ手紙を書く「未来への手紙条件」、1年後の自分から現在に手紙を書く「未来からの手紙条件」、現在の生活についてのみを書く「統制条件」にランダムに割り当てられた。実験の前後では感情状態と時間的距離化(現在から距離を置いて長期的な視野を持つ態度)を測定した。
分析の結果、「未来への手紙条件」と「未来からの手紙条件」で同程度のネガティブ感情の減少が認めたが、「統制条件」では大きな変化がなかった。さらに、この効果は、手紙を書くことで「現在の状態はずっとは続かない」という認識が高まったためであることが分かった。
本研究によって、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保が要求される中、大変な現状から時間的距離(テンポラル・ディスタンス)を取って、パンデミックという現象を長い目で見ることの意義が示された。手紙を書く作業は、人との接触も不要なため、パンデミック下でもすぐに始められるセルフケアの一手法として期待される。