九州大学大学院医学研究院と同大学病院の研究グループは、線香の煙を吸入すると気道が収縮しやすくなり、気道を覆う上皮のバリア機能が低下することで喘息が悪化する可能性があることを明らかにした。
宗教的行事や香りを楽しむものとして、アジアや中東の国々で慣習的に使用されている線香だが、喘息をもつ人では、「線香の煙で咳がとまらなくなる」、「ゼーゼーしだす」場合があるという。
実際に、線香を燃やすと多くの有害物質が発生し、タバコの燃焼時よりも高濃度のPM2.5が室内に長時間浮遊することが知られ、線香を日常的に使用する家庭の子供は、使用しない家庭と比べて喘息のリスクが高く、肺機能も低下しやすくなるという臨床研究の報告もある。ところが、線香煙の吸入が肺や気道の機能にどのような影響を及ぼすのかについては、詳細が明らかになっていなかった。
本研究グループは、マウスを用いた実験で、燃焼させる線香の量が多いほど、煙を吸入したマウスの気道過敏性が亢進すること、すなわち気道が収縮して喘息を起こしやすくなることを発見した。また、線香煙への曝露は、マウス肺の「タイトジャンクション蛋白」の発現を低下させ、気道を覆う上皮細胞のバリア機能を低下させることも見出した。タイトジャンクション蛋白は、細胞同士を密に結合
させることで気道上皮のバリア機能を保ち、炎症の原因となる吸入抗原が体内へ侵入することを防ぐ役割をもっているため、この発現の低下は喘息に悪影響を及ぼすという。
また、本研究では、線香煙によるマウスの肺や気道への有害な作用は、線香煙吸入後に発生する酸化ストレスによるものであり、抗酸化剤を使用することで症状改善が可能であることも報告している。線香の煙が喘息に及ぼす影響を科学的に解明することに成功した成果といえる。