従来のリチウムイオン電池の作動上限電圧をはるかに上回る、超5Vリチウムイオン電池の実用レベルの安定作動を、東京大学のグループが初めて達成した。

 低炭素・持続可能社会のキーデバイスであるリチウムイオン電池は、その容量が改良によって理論最大値に到達しつつある一方、作動上限電圧は4.3V程度に留まっており、更なる高エネルギー密度化には作動電圧の向上が必須となっている。しかし、高電圧作動時には、電解液と正極活物質が激しく劣化してしまうために、実用化レベルでの長期安定作動の実現には至っていなかった。

 こうした中、本グループは高電圧リチウムイオン電池の多角的な分析を行った結果、正極に添加されている炭素導電助剤への電解液中のアニオン(マイナスイオン)の挿入が、これまで見逃されていた重要な劣化因子であることを見出した。炭素導電助剤の黒鉛層間にアニオン(マイナスイオン)が入り込むことによって構造が破壊されてしまい、正極全体の導電性が低下して充放電安定性に多大な影響を及ぼすという。

 そこで、この副反応を効果的に抑制する“濃い”(高濃度)電解液を採用するとともに、正極表面にアニオン(マイナスイオン)の透過を防ぐ保護膜を形成する溶媒を採用した。この電解液では、アニオン(マイナスイオン)がリチウムイオンと強く結びついて(配位して)いるため、炭素導電助剤へのアニオン(マイナスイオン)の挿入が抑制され、同時に保護膜がアニオン(マイナスイオン)の透過を防ぎながら、正極活物質の表面を高電圧動作(高酸化雰囲気)から保護することができる。

 これにより、5.2Vを上限電圧とするリチウムイオン電池の実用レベルの長寿命化(初期容量比93%維持率/1000回充放電)を達成。理論的限界に近づきつつあったリチウムイオン電池の性能を格段に引き上げる次世代電池の可能性を示した。

論文情報:【Joule】An overlooked issue for high-voltage Li-ion Batteries: Suppressing the intercalation of anions into conductive carbon

東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。