理化学研究所、筑波大学、東京科学大学の共同研究グループは、実験室(ラボ)全体を一つの統合システムと見なし、自らの状態を把握して維持する「セルフ・メインテナビリティ(SeM、セム)」という新たな概念と、SeM対応ラボという新たな設計思想を提案した。
近年実験科学では、ロボットや機器装置が実験操作を行う「実験自動化」が急速に進んでいる。しかし現状では、ロボット用の実験手順、試薬・消耗品の適時の補充などの「裏方作業」(ケア)は人間に依存したままだ。このケアの解決が完全な自動化ラボ実現への最後の課題となっている。
研究グループは今回、細胞の恒常性維持機能をヒントにしたSeM概念と、SeMを備えた自動化ラボであるSeM対応ラボを提案。SeM対応ラボはユーザーの意図を理解し実験結果を提供することを目的としている。ラボ全体が包括的に自動化され、ユーザーは「意図を伝え、不完全情報を持つ協力者」として位置付け直され、ユーザーが明示していない情報はラボ自身が自主的に収集する。
SeM対応ラボは、AIによる中央制御(中央制御AI)と三つの基幹モジュール(要件管理モジュール、資源管理モジュール、機器管理モジュール)で構成され、リソース予約やスケジュール再編成の自律的実行、ユーザーとのチャットによる要件整理、消耗品・試薬・サンプルの状態の常時監視、個々のロボットの制御などを行う。
このようなケアの自動化で、人手は高レベル指示と最終判断に専念でき、外乱(ミスやエラー)や途中変更の際も計画を動的に再構成して継続できる利点がある。生命科学や化学など多様な分野で完全自動化研究を加速させる基盤技術の開発につながることが期待されるとしている。
論文情報:【Digital Discovery】Automating care by self-maintainability for full laboratory automation