国立精神・神経医療研究センターと浜松医科大学の研究グループは、周産期の母親の心理的ストレスが胎児の血中亜鉛レベルの低下を生じ、その結果、IL-6(インターロイキン-6)が上昇し、小児期のADHD(注意欠如・多動症)症状の発現に関与している可能性を明らかにした。

 これまで、未治療のADHD児の血液中では炎症性サイトカインであるIL-6の上昇が報告され、また、免疫調整や脳機能の発達に関与する亜鉛の欠乏はIL-6の発現を促進することが知られている。しかし、亜鉛とADHD、あるいは炎症マーカーをつなぐ遺伝的・生物学的メカニズムの検討は不足していた。

 そこで研究グループは、出生コホートによる長期的な追跡データ解析、血液マーカーの解析、国際共同データを用いたゲノム解析を統合して検討を行った。その結果、母親の周産期ストレス(EPDSスコア)が高いと、出生時の亜鉛が低下しIL-6が上昇することを示唆するデータを得た。この出生時のIL-6濃度は8〜9歳時点でのADHD症状の強さと関連していた。

 また、ADHDと血中亜鉛濃度に遺伝的な相関関係を認めた。さらに、血中亜鉛濃度に関連する遺伝的要因はADHDの発症リスクに影響し、ADHD発症に関連する遺伝的要因は血中亜鉛濃度に影響を与えるという双方向の因果関係を見出した。また、血中亜鉛濃度が低下しやすい遺伝的な変化を有するとADHD症状が強くなり、またADHD発症と関連する遺伝的な変化を有すると血中の亜鉛濃度が低下しやすいことが分かった。

 今回の研究成果により、周産期のメンタルヘルス支援や、亜鉛の補充を含む栄養学的アプローチによって神経発達症の発症リスク低減につながる可能性があるとしている。

論文情報:【npj Mental Health Research】Maternal stress, cord blood zinc and attention deficit hyperactivity disorder

大学ジャーナルオンライン編集部

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