畿央大学大学院博士後期課程の片岡新氏と信迫悟志教授らは、発達性協調運動症(DCD)、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)の各特性と運筆・書字スキルとの関連を明らかにした。
神経発達症のある子どもたちは多くが運筆・書字(書く行為)に困難を抱えている。一方で、DCD、ADHD、ASDの各特性と書く能力との詳細な関連はこれまで不明であった。
本研究グループは、診断名で分けるのではなく、それぞれの神経発達症特性の強さに着目する「Dimensional approach(次元的アプローチ)」による解析を試みた。DCD、ADHD、ASDの診断を有する6~11歳の子ども17名を対象に、運筆スキルはTraceCoder®(タブレット端末を用いた運筆の定量的評価)により直線・正弦波・三角波の3条件における基準線からの逸脱量、筆圧、速度、加速度、ジャーク(動作の滑らかさの指標)、描線面積を測定し、書字スキルは Understanding Reading and Writing Skills of Schoolchildren II(URAWSS-II)の標準化された書字評価により「書字流暢性(短時間で正確に多くの文字を書ける能力)」を測定した。
その結果、神経発達症特性ごとの運筆・書字運動プロファイルの違いが明らかとなった。まず、DCD特性が強い子どもほど、いずれの描線課題においても基準線からの逸脱が大きく、正確性や滑らかさに関する運筆指標が一貫して悪化していることが示された。次に、ADHD特性が強い場合には、筆圧が強く、描線速度が速い傾向が認められ、特に複雑な描線課題の際に顕著となることがわかった。
ASD特性については、一部ではネガティブに、一部ではポジティブに働く二面性が確認された。「注意を細部に向ける特性」が強いと、直線課題で速度、加速度、ジャークが悪化したが、「注意の切り替え能力」が高いと、逆に書字流暢性が向上するというポジティブな効果が確認された。
本研究により、子どもの書字困難は発達特性ごとに異なる形で現れることが判明し、診断名ではなく発達特性に応じた、より個別的な評価と支援の必要性が示された。今後は、より大規模な調査や研究を通じて発達に応じた書字スキルの変化や介入効果を検証し、特性に応じた支援プログラムの開発につなげていくとしている。