帝京大学医学部 精神神経科学講座の林 直樹客員教授とリエゾン診療スタッフなどの研究グループが、新聞による自殺事件の報道が自殺未遂患者に与える影響を統計的に分析、検証したところ、報道前と比べて報道後に有意に患者数が増加していることがわかった。

 メディア報道が自殺および自殺未遂の発生に及ぼす影響はこれまで多くの研究がなされ、センセーショナルな表現や過度に詳細な描写がリスクを高めることが指摘されている。これらの知見は報道ガイドラインの策定に活用されているが、自殺未遂患者の性別や年齢層ごとに新聞報道の影響がどのように異なるかについては十分に解明されていなかった。

 そこで本研究では、報道された自殺事件の特徴と自殺未遂患者の性別・年齢層別の入院数変化との関連を統計的に分析し、より詳細に検証した。

 調査は2012年4月から2019年1月までの期間、大手主要新聞4紙(全国版および東京都区部北部の地域版、朝刊・夕刊)で報道された自殺事件676件(記事数1205件)と、同期間に帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センターで入院治療を受けた自殺未遂患者1081ケースを対象に行い、報道前後1週間の自殺未遂による入院患者数の変化を比較・解析した。

 その結果、新聞報道後の入院患者数は統計的にも有意に約12%増加していることが示された。

 また、統計学的モデルを用いて自殺未遂患者の性別・年齢層(34歳以下と35歳以上)、報道された自殺事件のタイプ(有名人自殺、殺人自殺、集団自殺)、自殺手段(8種類)ごとの関連性を分析したところ、報道された自殺手段のみが性別・年齢層ごとの患者数変化に有意な関連を持つことが判明した。

 例えば、拳銃や猟銃による自殺報道は若年層の自殺未遂を減少させ、ガス(練炭など)による自殺報道は女性の自殺未遂を増加させる一方で、男性の自殺は減少する傾向があった。希少な自殺手段(入水や爆発物使用など)の報道は、女性および若年層の自殺未遂を増加させる傾向が認められた。

 加えて、本研究では有名人の自殺や重大自殺事件だけでなく、一般の自殺事件を含めた自殺報道全体が自殺未遂の増加に影響を与えていることも示された。

 以上より、他国同様に日本でも2000年頃から報道ガイドラインの導入・普及が活発に進められているが、本研究では現在でも報道が自殺未遂の増加に影響を与えていることが示された。また、一般の自殺報道においてもリスク上昇を防ぐための配慮が重要であることがわかった。加えて、新聞報道の受け手の性別や年齢層による影響の違いという知見は、今後ケースに応じたリスク対策に役立つ可能性があるとしている。

論文情報:【PLOS One】Sex and age differences in the association between routine suicide newspaper reporting and change in admissions of suicidal patients: An investigation at an emergency and critical care center in Tokyo

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