乳がんや婦人科がんと診断された働く女性は、離職のリスクが高いことが明らかになった。秋田大学の野村恭子教授が代表を務める全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)研究班が、日本最大の被用者保険者である協会けんぽの大規模データベースを分析し、突き止めた。
乳がんや婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)は就労世代にも発症しやすく、女性の就労に大きな影響を与える可能性がある。特に、我が国のジェンダーギャップインデックスは146カ国中118位(2024年)であり、男性に比して女性は賃金が低く非正規雇用が半数以上を占めるため、離職ががん治療継続に直結する大きな問題となる。
本研究では、協会けんぽが保有する診療報酬請求データと特定健診データを用いて、就労女性の乳がんや婦人科がんの罹患と離職の関係を検討した。その結果、乳がんや婦人科がんの診断を受けた女性は、そうでない女性と比べて有意に離職しやすいことが判明した。中でも、「うつ病の既往歴がある」「年齢が高い」「月収が低い」「勤続年数が長い」ことが離職しやすい就労女性の特徴として挙げられた。
乳がんを有する女性では、特定健診を受けている人の方が離職に至りにくい傾向が示された。特定健診を受けている人は、健康意識が高く乳がん検診も受けていることが多いため、その結果、乳がんの早期発見・治療に繋がり、結果として離職の抑制に寄与した可能性があるとしている。日本の婦人科領域におけるがん検診受診率はOECD諸国の中でも低く、直近の国民基礎調査でも受診率は50%未満にとどまるが、本研究結果は、就労女性のがん検診受診勧奨の重要性を示唆している。
また、がんと診断された女性が治療と仕事を両立できるよう、メンタルヘルス対策や経済的支援、カウンセリングなどのサポートの充実も求められる。本研究は、今後の女性の健康施策を検討する上で重要な基礎資料となると期待される。
論文情報:【JAMA Netw Open】Resignation in Working Women With Breast and Gynecologic Cancers