東京科学大学環境・社会理工学院融合理工学系の博士後期課程1年Ampan Laosunthara氏らの国際共同研究チームは、2024年元日に発生した能登半島地震対応の課題を分析し、少子高齢化や人口減少が進み縮小する日本社会において、平時の制度が災害時に機能不全に陥る可能性を提起した。

 本研究では災害時の制度的対応の実態を精査し、日本社会における防災制度の盲点を包括的に分析した。研究にはチュラーロンコーン大学や東北大学など複数機関の研究者が参画し、文部科学省や内閣府、国土交通省などが公開した被害報告書、防災計画、公的議事録など多くの一次資料を時系列で整理した。

 地震発生時、石川県知事は県外に不在で首相官邸からリモートで災害対策本部会議に参加した。交通の途絶により指揮系統が断絶し、意思決定が遅れた結果、消防や医療、避難誘導の現場対応に分断や遅延が生じた。

 輪島市では津波警報発令下に大規模火災が発生したが、津波の危険と水道設備の損傷により初期消火が難航した。その後、仮設住宅がハザードマップ上で浸水リスクの高い地域に建設されたため、2024年9月の豪雨では住民が再避難を迫られる二次災害が発生した。

 また建物解体に関する制度面の課題として、2023年に導入された「所有者不明建物管理制度」が初めて本格的に適用されたが、実際には相続関係の複雑な手続きがネックとなり、被災建物の解体が滞って復旧・再建の停滞につながったことも明らかになった。

 これらは人口減少や高齢化で人的資源が限られる地域において、時を選ばず発生する災害に対して既存制度が十分に対応できない脆弱性と、被災後の生活再建を阻害する制度上の障壁を明確にした。今後は「祝日レジリエンス」や制度の柔軟性を備えた災害ガバナンスの再設計が急務である。具体的には、災害時のガバナンス体制の二重化・冗長化、仮設住宅立地選定の多重ハザード評価制度化、建物解体に係る法的手続きの簡素化などが必要である。

 本研究を踏まえ、東京科学大学は国内外の大学や研究機関との連携を強化し、「災害レジリエンスの制度設計」を工学・法学・社会学分野で横断的に展開していく。

論文情報:【International Journal of Disaster Risk Reduction】Disaster Management in a Shrinking Society: The 2024 Noto PeninsulaEarthquakeʼs Holiday Shutdown, Challenges and Lessons Learned

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