名古屋大学高等研究院の森島邦博特任助教らの研究グループは、原子核乾板を用いた宇宙線による最新の技術で、エジプトのクフ王のピラミッド内部に未知の空間を発見した。
エジプトのピラミッドは世界最古の石造建築で、内部には未知の空間の可能性や建築法について多くの謎が残されている。この謎の解明のため、エジプトのピラミッド群、屈折ピラミッド群、赤のピラミッド群を対象に、最新の科学技術を駆使した国際共同研究「スキャンピラミッド」が立ち上げられた。エジプト考古学省、カイロ大学、HIPにより運営されており、最新の科学技術を駆使してピラミッドの内部や外部を調査することが目的である。調査には、宇宙線ミューオンラジオグラフィティ、赤外線イメージング、写真やレーザー測量による精密な3次元再構成の技術が用いられる。
同グループは宇宙線ミューオンラジオグラフィティ技術を採用。厚さ約0.3mmの薄いシート状の放射線検出器である原子核乾板を使用するもので、ミューオンと呼ばれる電荷をもつ素粒子の軌跡を0.1mm以下の精度で立体的に記録する特殊なフィルムである。ミューオンは高い透過力を持つ素粒子で1平方cmあたりの面積を1分間に約1個の割合で常に地上に降り注いでいるという。このため、観測に使用する場合、ミューオンが想定される数より多く検出されるとその方向には空間や低密度領域が存在することになる。
今回、研究グループは、クフ王のピラミッド内部へ繋がる下路通路にこの原子核乾板検出器を設置して観測。フィルムに蓄積した約870万本の宇宙線ミューオンの情報を分析した。その結果、ミューオンが多く検出される領域が確認され、北側から南側(中心方向)にかけて、空間があることが分かった。
今回のような手法のスキャニングによる巨大な石造建造物の未知の空間の発見は世界初の成果だという。この手法は様々な考古学遺跡長調査や空洞調査へとの応用を示しており、今後、大きな波及効果が期待されるとしている。