細胞内外のさまざまな物質の輸送に関わるABCトランスポーターの立体構造の解明は生物学上極めて重要ですが、これまでは低分子輸送に関わる極小数のABCトランスポーターの研究に限定されていました。7月31日、京都大学の橋本渉農学研究科准教授、村田幸作名誉教授(現・摂南大学理工学部教授)らの研究グループは、巨大分子輸送ABCトランスポーターの全構造と輸送機構を解明しました。近年、アルギン酸などの巨大分子からバイオ燃料を生成する技術が注目されており、今回の研究成果はこうした技術への応用も期待されます。

 土壌から分離されたスフィンゴモナス属細菌(A1株)は、ワカメやコンブのぬめりの成分であるアルギン酸を炭素源として生育します。アルギン酸のような巨大分子を利用する場合、ほとんどの微生物は予め分解酵素を細胞の外に分泌し、小さな分子に分解してから取り込みます。それに対し、細菌A1株は、分解酵素を細胞の外に分泌することなく、巨大分子を丸ごと呑み込みます。同研究グループは、この丸呑みを可能にする巨大分子輸送ABCトランスポーターの立体構造とその機能を初めて明らかにしました。本研究により、これまでに研究されたABCトランスポーターにはない新規な構造が発見されました。

 すでに細菌A1株を用いたアルギン酸からのバイオエタノールの生産が成功していますが、今回、アルギン酸輸送ABCトランスポーターの構造が決定されたことで、その輸送機能の強化と制御が可能となり、バイオ燃料の生産性の向上が期待されます。また、細菌A1株がもつ輸送系を他の有用微生物に移植(器官移植と呼び、ヒトの臓器移植に相当します)することも検討されています。器官移植による世界最強のダイオキシン分解細菌の育種も成功しており、本研究成果を応用することでさまざまな環境有害物質などを強力に分解する「スーパー細菌」の創生も可能になるかもしれません。

出典:【京都大学】細菌の大規模改変を可能にする新技術の確立 ~巨大分子輸送ABCトランスポーターの全構造と輸送機構を解明~

京都大学

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