慶應義塾大学のグループは、長生きの秘訣を探るため、国内の百寿者(100歳以上)の腸内細菌叢と代謝物を解析した結果、isoalloLCA(イソアロリトコール酸)という二次胆汁酸が特異的に多いことを見いだし、この胆汁酸の生合成経路と作用を突き止めることに成功した。
まず、百寿者の腸管では胆汁酸の代謝に関わる細菌の遺伝子群が増加していることを確認し、便中の胆汁酸の解析から、腸内細菌によって代謝されるisoalloLCAが顕著に増えていることを見いだした。
腸内細菌株を単離し、代謝反応を確かめると、isoalloLCAを効果的に合成できる細菌株としてParabacteroides merdae、Odoribacter laneus、Odoribacteraceaeが同定された。無菌マウスにOdoribacteraceaeを投与すると、生体内でisoalloLCAを合成できることも見いだした。
これらの細菌株のゲノム解読では、共通してヒト5アルファ還元酵素(5α-reductase、5AR)に相同性をもつ酵素を保有していること、5AR遺伝子に隣接して胆汁酸代謝に関与すると考えられる3βHSDH(3ベータ水酸化ステロイド脱水素酵素)遺伝子が存在することがわかった。5ARと3βHSDHを欠損させるとisoalloLCAへの生合成が見られなくなるなど、合成経路も判明した。
さらに、胆汁酸は病原性細菌の増殖抑制作用をもつことが明らかになっているため、isoalloLCAにも同様の作用があるのかを検証した。その結果、近年院内感染が問題となっているグラム陽性病原性細菌に対する強い抗菌活性をもつことが判明した。
このことから、百寿者の腸内ではグラム陽性病原性細菌の排除が促進され、健康な腸内環境が維持されている可能性が示唆された。isoalloLCAを合成する腸内細菌株は、感染症に対する予防・治療にも応用できる可能性があるとしている。
論文情報:【Nature】Novel bile acid biosynthetic pathways are enriched in the microbiome ofcentenarians