岡山大学資源植物科学研究所の杉本学准教授らの研究グループは、国際宇宙ステーション(ISS)船外に保管したイネ種子は、保管期間の長さに伴い発芽率が低下し、種子中の発芽に関与する貯蔵型mRNAが減少することを明らかにした。

 人類が宇宙で長期にわたり滞在し活動する場合、食料自給のため宇宙で種子を保管し栽培する必要がある。地上では種子の保管は低温低湿条件下で行うが、宇宙では利用できる電力や建築資材等に制限があり、種子保管施設は可能な限り簡素であることが要求される。だが、宇宙線、電磁場、微小重力等の地球上とは全く異なる宇宙環境が種子の生存能力に与える影響に関する情報は少なく、宇宙環境における種子の生存能力に関与する因子やどの程度の防御レベルが必要であるか不明である。

 研究グループは、農業生物資源研究所(現 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)の協力の下、ISS船外にイネ種子を保管して、その生存能力と発現遺伝子の網羅的解析を行った。イネ「日本晴」種子を金属筒に入れてISS船外に設置し、13もしくは20カ月放置した後に地上へ搬送した。その結果、13カ月船外保管種子は吸水後3日目に発芽し発芽率は48%であったのに対して、20カ月船外保管種子は5日目に発芽し発芽率は7%であった。

 これにより、ISS船外での保管期間の長さに伴いイネ種子の発芽率が低下し発芽が遅延したことが確認された。種子、発芽種子、幼少芽や根の遺伝子配列、遺伝子量を解析した結果、どちらのイネの遺伝子にも変異はほとんど認められないが、20 カ月船外保管種子では、発芽に関与する貯蔵型mRNA 量が減少していることを明らかにし、宇宙環境による貯蔵型mRNAのダメージが種子の生存能力に関与することを示した。

 本研究の成果は、宇宙環境で保管する種子に起こりうる問題や種子の保管に不可欠な条件を知るために有用なものであり、今後、人類の宇宙開発に貢献するものと期待される。

大学ジャーナルオンライン編集部

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