東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の村上義彦准教授の研究グループは、複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲルの開発に成功した。
がんの薬物治療では、たいてい複数の抗がん剤や補助薬を併用することで薬効の増大や副作用の軽減が図られる。使用する薬物の種類が増えるほど薬物の投与スケジュールが複雑になる。また、在宅の一般的な投薬治療においても、複数の薬の投薬スケジュールを守り、飲み忘れないことは、今後の高齢化社会では極めて重要になる。
研究グループは、薬物キャリア(体内に薬を運ぶための入れ物)として利用されている、分子間力によって多数の分子が集合したミセルという構造体に着目。薬物キャリアをゲルの内部に固定化するという独自のアイデアを得た。ゲルはコロイド溶液が固まって、半固体ないし固体の状態になったもので、狭い意味ではゼリーのこと。今回、物質の放出速度が異なるミセルをゲルの内部に固定化することによって、複数の物質の放出挙動を自在に制御できるゲルの開発に成功した。また、複数の物質がゲルから放出される様子を、蛍光顕微鏡で観察することにも成功した。
高分子(直鎖状)とミセルを混合するだけで数秒以内にゲルの形成が可能になったため、治療用のゲルを体内で形成しやすくなり、患者に優しい新しいがん治療法が実現する可能性がある。また、ゲルだけではなく、皮膚に貼付するパッチ材料の中に複数の高分子ミセルを固定化して、高齢者が使いやすい、投薬スケジュール通りに複数の薬が放出されるゲル状のシートが実現する可能性もある。今後は、抗がん剤などの各種薬物を用いてゲルを作製し、その治療効果を評価する予定だという。