麻布大学生命・環境科学部食品生命科学科の島津德人准教授(食品生理学研究室)の研究グループは、よみうりランド・アシカ館と共同で、アシカの歯周病についての研究をしている。ヒトにおいては高齢者の歯の残存数が少ないと認知症になりやすいことや糖尿病や心臓疾患・脳血管疾患と歯周病との関係性が明らかになってきたが、高齢化は動物園で飼育されている動物も同様で、多くの動物で口腔疾患の増加が問題となっている。
歯周病は野生動物にはあってもごく少数とみられているが、ヒトによる飼育環境下では発見されている。ヒトが動物が共生する機会が増えた結果、歯周疾患が人獣共通感染症のひとつとして認識されるようになってきている。
しかし歯周病原性細菌がヒトとイヌとの間において交差感染を示唆する研究報告があるが、動物園の動物と飼育員との間でも交差感染が生じるのか、その実態はまだわかっていない。また歯科診療に精通した動物園獣医師は少なく、多くの飼育施設では長年の経験に頼る対症療法がおこなわれている。
島津准教授は、口腔疾患の研究経験を活かして“食”と“口腔”に関わる研究に取り組んでいる。現在は歯周病に罹患した動物園動物の歯周病原性細菌の由来を明らかにするため、ヒトの歯周病原性細菌のDNA検査を動物園動物にも応用して、人獣共通感染症としての歯周病の実態を調査している。
歯周病原性細菌の解析を実施するためには動物の口腔内から歯肉溝滲出液を採取する必要があるため、本研究では、口の中を観察しやすい動物としてアシカに注目。十分なハズバンダリートレーニング※が行われているよみうりランド・アシカ館の協力を仰ぎ、アシカショーに登場しているカリフォルニアアシカを対象に研究を開始した。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策により大学の研究活動が制限される中、2020年度~2021年度にかけてアシカ7頭のサンプリングを完了し、細菌検査を継続している。この検査結果を分析して、歯周病の感染状況を解明していく。
※ハズバンダリートレーニングとは、エサなどのご褒美をあげることで動物が自主的に移動する、採血のために手足を出す、口を開けるなど動物が健康管理に必要な行動をとれるようにするための訓練(受診動作訓練)。麻酔など動物に負担をかけずに、治療や健康管理ができるよう、ストレスなく自主的にいろいろな体制をとる訓練のこと。