インスリン抵抗性とは、血糖を下げるホルモンであるインスリンの感受性が低下して効きにくくなる状態をいい、糖尿病やメタボリックシンドロームの重要な原因の一つと考えられている。今回、順天堂大学の研究グループは、わずか24時間の不活動でも骨格筋にインスリン抵抗性が生じることを発見した。
インスリン抵抗性は、主に肥満に伴って出現すると考えられているが、肥満がない場合でも、ステイホームや座位時間の増加といった不活動でインスリン抵抗性が発生することがある。そこで本研究では、まずマウスの片脚をギプス固定した不活動モデルを作成し、代謝機能への影響を調べた。
その結果、たった24時間の不活動でも骨格筋のインスリン感受性は半減し、インスリン抵抗性が生じることがわかった。また、不活動に高脂肪食を組み合わせると、インスリン抵抗性がさらに増悪した。
骨格筋細胞内にジアシルグリセロール(DG)という脂質が蓄積すると、インスリンシグナル伝達が阻害されインスリン感受性が低下すると考えられていることから、骨格筋のDG量も解析した。すると、DG量は不活動で倍増、高脂肪食との組み合わせでさらに増加し、増加に伴ってインスリン抵抗性が発生することがわかった。
これには、DGを生成する脂質代謝酵素Lipin1が関与していることが明らかになったという。Lipin1を不活化した骨格筋では、不活動によるDG蓄積やインスリン抵抗性が発生しなかった。一方、ヒトを対象とした実験でも、片足を24時間ギプス固定することによる不活動でLipin1発現量と骨格筋DG量が有意に増加し、マウス実験と矛盾しない結果が得られた。
以上から、24時間という短時間の不活動でもLipin1の活性化により骨格筋へのDG蓄積が生じ、インスリン抵抗性が発生するメカニズムが明らかとなった。本成果は、Lipin1を標的にした新しい生活習慣病予防策の開発にもつながる可能性がある。
論文情報:【American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism】Short-term physical inactivity induces diacylglycerol accumulation and insulinresistance in muscle via lipin1 activation(短期間の身体不活動は、lipin1の活性化を介して筋肉にジアシルグリセロールの蓄積とインスリン抵抗性を引き起こす)